研究概要 |
本研究は脳内神経回路網が急速に発達する幼児期の一定期間に過度のストレスを負荷すると、脳内神経回路の情報処理機構や機能的異常が生じるとの仮説のもとに、1)幼若期におけるストレス負荷と脳機能発達および障害との関連性を、臨界期という視点から追究し、2)関連分子としてのセロトニン(5-HT)神経の調節的役割を明らかにすることを目的とした。具体的には、幼若期(生後2ならびに3週齢時)に嫌悪刺激である電撃ストレスを負荷した幼若期ストレス負荷ラットを用い、情動ストレスに対する行動応答として、情動記憶の一環である獲得、再生ならびに消去過程の三つの側面から検討した。神経回路として、精神疾患と密接な関連性が指摘されている皮質-海馬-扁桃体の情動神経回路に着目し、特にこれらの神経回路網の統合的役割を担っている皮質前頭前野のシナプス機能に焦点を当てた。その結果、生後3週齢時にストレスを負荷したラットでは、成長後、消去過程の行動応答性の低下、ならびに皮質シナプス応答の異常がみられた。また、生後2週齢ストレス負荷ラットでは、再生過程における行動異常ならびに海馬の5-HTIA受容体を介したシナプス応答機能変化が認められた。さらに3週齢ストレス負荷ラットでは、恐怖記憶とは異なった情動神経回路の関与が示唆されている生得的な不安・恐怖に基づく行動応答性が異なっていることを明らかにした。この行動応答の異常は、5-HT神経毒で脳内5-HT神経を破壊したラットでもみられたことより、5-HT神経系が生得的な不安に基づく情動行動に重要な役割を担っていることが示唆された。すなわち、幼若期ストレスZ負荷ラットでみられた行動応答ならびにシナプス応答の異常の背景には5-HT神経機能が関与している可能性が示唆された。以上の結果から、幼若期ストレス負荷ラットの成長後の5-HT神経機能を免疫組織化学的に検討した結果、3週齢ストレス負荷ラットの5-HT神経細胞の起始核である縫線核の5-HT陽性細胞が減少していることを明らかにした。これらの結果は学会発表ならびに論文として報告した(Koono et al.,2007;小関他、2007,Matsumoto, et. al.,2008)。現在は5-HTIA受容体機能を介した脳機能発達における5-HT調節機構を更に詳細に解明するため、パッチクランプ法を用いて検討中である。
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