パニック障害は不安障害の一亜系であるが、最近ではPTSDやASD、SAD等と共に、Stress-induced fear circuitry disordersの範疇に入れられ、恐怖条件づけに関連した脳内神経回路の異常が想定されている疾患である。動物実験では興奮性アミノ酸であるグルタミン酸(Glu)が扁桃体で上昇しているとの指摘がなされている。また、抗不安薬であるベンゾジアゼピン系薬剤は抑制性アミノ酸であるY-アミノ酪酸(GABA)神経系に作用することは周知のことである。従って、パニック障害では、Glu神経系もしくはGABA神経系の機能異常が想定されている。そこで本研究では、超高磁場(3テスラ)MRI装置を用いて、パニック障害患者及び健常被験者を対象として^1 H-MRS測定を行い、両側扁桃体及び前部・後部帯状回(扁桃体における恐怖の消去の調節に関して重要な役割をもつとされている)におけるGlu及びGABAを、直接測定することを試みた。 結果は、完全寛解(測定前6ヶ月以上PAや広場恐怖がない状態と定義)にあるパニック障害患者群では、左扁桃体及び後部帯状回のGluが有意に高かった。このことは、パニック障害患者において、前述した恐怖の条件づけに関する神経回路に関連した脳部位でGlu神経系の機能異常が存在する可能性を直接示唆したものであり、世界で初めての報告である。また、これらの結果は、完全寛解期においても認められたことから、中間表現型マーカーとなる可能性もあり、今後はこれらの指標を用いて、分子遺伝学とのコラボレーションができればと考えている。
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