研究概要 |
3テスラ1H-MRSにより測定されたグルタミン酸・グルタミン(Glx)とGABAの脳内濃度を統合失調症の中間表現型とみなし,これに影響を与える遺伝子の一塩基変異(SNP)を探索した。また同時に脳局所体積と脳白質拡散異方性を測定し、所見の特異性を検討した。 まず先行研究を参考にして、候補遺伝子としてドパミンD3受容体(DRD3)、脳由来神経栄養因子(BDNF),ニューレグリン1(NRGI)に着目し、健常者(男性43名,女性7名)についてDRD3については一つ、BDNFについても一つ、NRG1については6つのSNPを調べ、野生型と非野生型の2群比較を行った。 結果、前部帯状回,後部帯状回,小脳に設置された27cm^3の関心領域から得たN-アセチルアスパラギン酸,コリン含有物,Glx、GABAの定量値は、2群間で有意差を認めなかった。Voxel-Based Morphometry(VBM)を用いた全脳を対象とした脳局所体積についても、2群間で有意差を認めなかった。しかし拡散テンソル画像法を用いて、左右の前頭連合野白質、脳梁膝部、内包後脚、脳梁膨大部、左右頭頂葉白質におけるfractional anisotropy(FA)を算出して2群間で比較したところ、NRG1遺伝子のSNPの一つrs39249993の非野生型では右前頭連合野白質のFA値が有意に低かった(p<0.05)。このSNPが前頭連合野白質の拡散異方性に影響を与えることが分かったので、統合失調症者12名(男性9名、女性3名)について調べたところ、この変異を持つ統合失調症患者の右前頭連合野白質のFA値はさらに低値であることが判明した。 より多数の患者データを用いて所見を確認する必要があるものの、本研究によりNRG1遺伝子のあるSNPが、統合失調症の白質障害の脆弱性を規定する一要因である可能性が示唆された。
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