前年度までにpericentrinホモ変異マウスでは神経細胞1次繊毛の低形成および抗うつ行動が認められたが、本年度は成長後も神経幹細胞の増殖・分化が持続する海馬歯状回顆粒細胞下層(subgranular zone ; SGZ)での神経新生を、pericentrin変異マウスと野生型マウスについて計測することにより、神経幹細胞の1次繊毛が分泌因子を感知し核への増殖シグナルの起点になっている可能性を検討した。 Bromodeoxyuridine(BrdU)は増殖細胞の合成期DNAに取り込まれるため、新生細胞の標識に広く用いられる。ホモ変異マウスと野生型マウス(オス、8週齢)にBrdUを腹腔内投与し(100mg/kg;2時間おきに4回)、最後の投与の48時間後に灌流固定し、海馬を含む領域の冠状断連続切片を作成した。切片を2重免疫蛍光染色により観察し、歯状回顆粒細胞層のBrdU、NeuN両陽性細胞すなわち新生神経細胞の数を計測した。ホモ変異マウス、野生型マウス間で比較したところ、有意な差異を認めなかった。各群についてさらに3群に分け、生理食塩水、抗うつ薬imipramine(30mg/kg)、fluoxetine(20mg/kg)のいずれかを21日間連続で腹腔内投与したうえで同様の計測を行ったが、各群ともに、新生神経細胞数は抗うつ薬の投与による有意な影響を受けなかった。以上より、繊毛の低形成は神経新生に影響を及ぼさないと考えられた。
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