最近の統合失調症薬物療法の中心となっているのは、非定型抗精神病薬である。近年急速に伸展した脳神経画像研究によって、統合失調症に関しても、脳の特定部位の萎縮が薬物治療開始前から存在することや、病態の進行に伴う萎縮の拡大が指摘されている。さらに、非定型抗精神病薬治療による脳萎縮の進行抑制の可能性さえも指摘されている。統合失調症における脳萎縮の原因は不明であるが、代表的な神経変性疾患であるアルツハイマー病のように中枢神経におけるneuroinflammationが関与している可能性がある。実際に、抗精神病薬に抗炎症薬を付加することによって、統合失調症の治療効果が増強されたという報告も知られている。neuroinflammationの機序には脳内マクロファージであるミクログリアが深く関わっている。今年度は、ミクログリア活性化に対する非定型抗精神病薬の影響を検策することによって、統合失調症の発症や再燃の、neuroinflammationを通じたメカニズムを探り、統合失調症の根本的治療法への道筋を明らかにすることをその目的として研究を行った。今回の実験結果より、非定型抗精神病薬(リスペリドン、クエチアピン、ペロスピロン)はIFN-γによって活性化されたミクログリア由来のフリーラジカル(nitric oxide)や炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6)の産生を有意に抑制することが示された。nitric oxideや炎症性サイトカインは統合失調症脳内の器質性変化をもたらし、病態の慢性化・不可逆性化に関与する可能性があるとされている。従って、これらの非定型抗精神病薬は急性精神病状態の治療のみでなく、統合失調症の慢性化・不可逆性をも抑制し、陰性症状の発現や認知機能障害予防に効果がある可能性が示された。
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