研究概要 |
平22年度は、病前気質にされるsoft bipolarityを客観的に抽出すべく、非臨278名に対して、Temperament Evaluation of Memphis, Pisa, Paris and San Diego-autoquestionnaire/Munich Personality Test (TEMPS-A/MPT)を用いた気質評価を行い、循環、焦燥、発揚、抑うつ、不安、シゾイド、メランコリー親和型の各気質の分布(平均+2標準偏差を超える逸脱例が1.8-6.1%の範囲で存在)や気質間の相関(循環、焦燥、抑うつ、シゾイドの4気質間にSpearman順位相関係数0.5前後の密接な連関)を明らかにした(Koda & Kondo, Clinical Neuropsychopharmacology & Therapeutics, 2010)。さらに、気質に与える性差・年齢の影響を検討し、若年および女性にはsoft bipolarityの指標となる循環気質の頻度が有意に高いことを示し、気質面では若年女性が抗うつ薬使用時の躁転リスクが相対的に高いことを示唆した。 一方、FDA(米国食品医薬品局)において大うつ病の強化療法の治療薬として承認されているaripiprazole (ARI)に関して、ARIおよびその活性代謝産物であるdehydroaripiprazole (DARI)の定常状態血漿濃度とcytochrome P450(CYP) 2D6の変異遺伝子である*10アレルとの関連について検討した(Suzuki et al. Ther Drug Monit, 2011)。ARIの定常状態血漿濃度は*10アレルの保有数に依存する明らかなgene dose effectを認め、ARIの薬理学的活性の指標となるARIおよびDARIの血漿濃度の総和も、*10アレル保有者において非保有者よりも有意に高いことが判明した。*10アレルはCYP2D6活性を低下させる遺伝子変異として、日本人の半数近くにその保有者が存在することから、ARIのようにCYP2D6によって代謝される基質薬剤の薬物動態には大きな個体間変動がもたらされる可能性は高く、今後はCYP2D6のgenotypingがARIの治療用量を設定するうえで重要な意義を有するであろうことが示唆された。
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