事象関連電位N100成分を記録し発声の及ぼす影響について検討を行った。精神疾患における幻聴の成因が随伴発射の障害によるものであるなら、非幻聴群においては聴覚N1成分の障害は認めないと予想される。平成19年度はデータ収集の体制を確立するとともに、予備的な実験を健常者を対象として施行した。事象関連電位の測定においては、被験者はシールドルーム内に着席し、安静閉眼の状態で、ヘッドフォンから聞こえる刺激音を聴取させた。刺激は1KHzおよび2KHzの純音でランダムに出現させる。刺激感覚は500ミリ秒とする。記録は何も行わない無課題条件と、自ら発声を連続して行う発声条件、録音した自らの声を流す聴取条件の3条件を施行する。脳波は国際10-20法による脳表面の16部位から導出する。刺激前50ミリ秒から刺激後400ミリ秒の区間をサンプリングクロック1ミリ秒でAD変換し、アーチファクトを含む施行を除外した後に、刺激ごとに加算平均を行った。加算波形からNl成分の振幅および潜時を求め、各条件ごとに比較した。また2KHzに対する加算波形から1KHzに対する加算波形の差を求め、この差波形からミスマッチ陰性電位を算出し、同様に条件ごとに比較した。この結果健常者15例においては、発声条件において、N100振幅の減少が認められた。さらに、統合失調症患者を対象として、幻聴などの精神症状と思考障害、神経心理学的検査の課題成績との関連の検討を行ったが、思考障害尺度の総合総得点と有意な相関を示したのは、陽性症状、魔術的思考、社会経済状況、総入院期間、罹病期間であった。
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