H20年度は、proton Magnetic resonance spectroscopy(1H-MRS)を用いて、治療後残遺眠気を呈する閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome:OSAS)症例における脳代謝・機能障害の評価を行った。 <方法> 東京医科大学病院および代々木睡眠クリニックにて、経鼻的持続陽圧呼吸療法(nasal Continuous Positive Airway Pressure:nCPAP)治療中のOSAS患者のうち、平均4時間以上の機器使用にも関わらず、Epworth Sleepiness Scale(ESS)得点11点以上の病的水準の眠気が持続する症例のうち、睡眠時間を6時間以上確保しているを残遺眠気群(13例)とした。CPAP治療によりESS得点11未満へ改善した改善群(14例)と、年齢および重症度をマッチさせた健常者群(12例)の3群について、proton MRS撮影後得られたスペクトルデータより、N-acetylaspartate(NAA)、choline(Cho)、creatine(Cre)の各ピークに対しcurve fitting(Gaussian)を行い、積分値を算出した。3群間の大脳皮質および白質におけるNAA/Cho比、NAA/Cre比、Cho/Cre比の比較を行った。(Kruskal-Wallis検定) <結果> 大脳皮質におけるNAA/Cho、NAA/Cre、Cho/Creは、残遺眠気群(2.35±0.31、1.90±0.26、0.88±0.33)、改善群(2.36±0.23、1.92±0.25、0.85±0.11)、健常者群(2.39±0.27、1.88±0.30、0.84±0.20)、白質では残遺眠気群(2.02±0.25、2.02±0.23、1.08±0.12)、改善群(2.09±0.32、2.03±0.27、0.97±0.20)、健常者群(2.14±0.25、2.06±0.41、0.98±0.16)であり、群間で統計的有意差を認めなかった。 <考察> 今回の検討では、残遺眠気群における脳代謝・機能障害は示されず、残遺眠気の要因となる器質的変化を示唆する所見は得られなかった。残遺眠気群には、OSAS以外の過眠を呈する疾患と、長期罹病経過により治療抵抗性眠気を生じている症例とが混在しており、引き続き多数例への系統的検討により、その独立性と病態の解明が必要と考えられた。
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