ドーパミンは本来、覚醒誘発に関与する神経伝達物質として知られている。しかしパーキンソン病の治療に使用されるドーパミン(D2)受容体作動薬により、逆説的に眠気が生じることが報告されている。本研究では、このようなドーパミン受容体作動薬により睡眠・覚醒の相反する現象が生じることについてその脳内機構の解明を目的とする。 H19年度は、まずどのような条件の違いによって、睡眠・覚醒の相反する現象が生じるかについて検討を行った。薬剤としては、実際にパーキンソン病の治療薬として用いられているD2/D3作動薬と、D2/D3受容体作動薬として頻繁に実験に用いられるquinpiroleの計2剤を用いて、覚醒、睡眠を生じる条件を検討した。この結果、D2/D3受容体作動薬の投与量を変えることで、睡眠覚醒に対する効果が反転することが、どちらの薬剤でも確認された。ドーパミン作動薬で生じる眠気は、ヒトではsleep attack(突発性睡眠)と称される。つまり、急激に眠り込んでしまうような状態である。一方ラットを用いた今回の実験では、それに該当するような突発的な眠気が生じるわけではなく、睡眠潜時が短くなることと、投与後数時間において睡眠量(徐波睡眠、逆説睡眠とも)が増加するという傾向が認められた。 期間の後半において、これまでの睡眠ポリグラフとマイクロダイアリシス測定系に加えて、動物の行動量解析システムを導入した。これを用いて、薬剤投与なしと、薬剤投与下の両条件で、睡眠覚醒量、行動量、ドーパミン分泌量の各パラメータ間の相関・関連を検討する実験を行っている。
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