ドーパミンは覚醒に関与する神経伝達物質であるが、パーキンソン病の治療薬であるドーパミン受容体作動薬により、逆説的に眠気が生じることが臨床上問題となっている。このドーパミン受容体作動薬により睡眠・覚醒の相反する結果が生じる現象について、本研究ではその脳内機構の解明を目的とする。昨年度までの研究から、投与するドーパミン作動薬の用量を変えることで、高用量では覚醒が生じ、低用量では睡眠が生じることが明らかとなった。この結果を踏まえて今年度は、睡眠と覚醒をそれぞれドーパミン作動薬で誘発し、同時に内側前頭前野(mPFC)におけるドーパミン分泌の変化をマイクロダイアリシス法を用いてモニターして検討した。また同時に行動量の変化も測定した。高用量のドーパミン作動薬により覚醒を誘発した場合、mPFCにおけるドーパミン分泌は強力に抑制された。これは大量のドーパミン作動薬により後シナプスのD2受容体が刺激され、結果として内因性のドーパミン分泌が抑制されたと考えられた。低用量のドーパミン作動薬により睡眠を誘発した場合、興味深いことにドーパミン分泌は、vehicle投与対照群にてのドーパミン分泌よりも有意に低下した。この低下の程度は、高用量投与時の低下よりも軽度であった。低用量のドーパミン作動薬投与時には、後シナプスよりも感受性が高いとされる前シナプスのD2(D3)自己受容体に有意に作用して内因性のドーパミン分泌が減少した結果、覚醒度が低下して睡眠が誘発されるものと考えられた。 研究は現在も進行中であり、睡眠-覚醒量の変化、活動量(行動量)の変化、ドーパミン濃度の変化を同時にモニターし、覚醒量と活動量、活動量とドーパミン分泌量との関連などについて詳細な検討を行っていく。
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