研究概要 |
心血管障害とうつ病との関連性が注目されており,その共通因子として一酸化窒素(NO)の関与が考えられているNOはフリーラジカルであり,存在寿命が短く,生体内では亜硝酸イオン(NO2-),硝酸イオン(NO3-)に代謝される。NOは,ホルモン,神経伝達物質,傍分泌,メッセンジャー,メディエーター,細胞保護,細胞障害分子として働き,多くの細胞に分子標的がある。我々は一酸化窒素合成酵素遺伝子をknock-outさせたマウスではカテコールアミン動態に変化を来すことを報告した。一方,血中脳由来神経栄養因子(BDNF)がうつ病の病態に重要な働きをしているという知見も増加している。今年度の研究では,うつ病患者の病状,特に自殺という観点から血中NOx及び血中BDNF物質を調べるごとにより,うつ病の病態に関して,特に自殺念慮や自殺企図と血中一酸化窒素代謝産物(NOx)や血史団DNE濃度との関連を検討した。対象はDSM-IV-TRの大うつ病エピソードQ診断基準を満たす120例(Dep群)と健常群(Cont群)101例である。うつ病エピソードの期間中の任意の時点で採血を行い,血中BDNF濃度はsahdwich ELISA法,血中NOx濃度はHPLC法にて測定した。Deb群の血中NOx濃度は15.2±14.8μM(mean±SD,以下同じ),Cont群の血中NOx濃度は40.1±27.4μMで,DeP群では有意に低値であった。一方,血中BDNF濃度もDep群では10.2±6.1ng/ml,Cont群では20.1±12.0ng/mLであり,Dep群で互意に低直であった。またHAM-Dの下位項目である自殺の項目にて2点以上を自殺念慮有群,1点以下を自殺念慮無群と定義した場合,血中BDNF濃度,血中NOx濃度に関しては両群間に差は認められなかった。以上のことより,うつ病患者では血中BDNFおよびNOx濃度が低下している可能性が示唆されたが両者は自殺関連行動の指標にはならない可能性が示唆された。
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