【目的】今回の研究では、これまでの我々のDNA-PK(DNA依存性プロテインキナーゼ)の研究成果を臨床応用に近づけることを目標として、DNA-PK活性を阻害して、放射線による殺細胞効果を増感する方法の開発を目指した。そこで、ギメラシルに注目して研究を行った。ギメラシルは、抗癌剤TS-1の一成分であり、肝臓での5-FUの分解を阻害し、血中5-FU濃度を高値に保つ作用をもつ。しかし、ギメラシル自体が放射線増感効果を持つことが報告されており、その放射線増感の分子メカニズムを検討した。 【方法】(1)DLD-1細胞(ヒト大腸癌細胞)、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌細胞)を含む8種の細胞にてギメラシルの放射線増感効果をColony assay法を用いて検討した。(2)DNA二重鎖切断の2つの修復経路の一方である非相同末端結合(NHEJ)を保持する細胞と欠損する細胞3組6種類の細胞を用い、Colony assay法を施行し、ギメラシルの放射線増感効果を調べた。(3)相同組み替え修復に障害のある細胞を用いてギメラシルの放射線増感効果を検討した。 【結果】(1)8種の細胞すべてに於いてギメラシルの放射線増感効果が認められ、また全ての細胞において毒性は認められなかった。200から1000μMの濃度間で増感作用の上昇を認め、1000μMにてプラトーに達した。(2)DNA-PKcsを欠損し、非相同末端結合修復に障害のある細胞において強い放射線増感効果が認められた。(3)相同組み替え修復に障害のある細胞ではギメラシルの放射線増感効果は認められなかった。 【結論】ギメラシルの増感効果は、DNA-PK活性の阻害によるものではなく、DNA二重鎖切断の相同組換え修復(HR)の阻害によることが示唆された。
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