研究概要 |
本研究では、放射線照射とHDAC阻害剤を用い、それぞれの細胞死およびGJIC機能の誘導にどのような影響を及ぼすかについて、ヒト正常腹膜中皮細胞(HPMC)、正常ラット肝細胞(WB:Cx43発現)、癌遺伝子ras,myc,src,neuを形質導入し、GJIC機能が阻害された正常ラット肝細胞(WB-ras,-myc,-src,-neu)、HeLa細胞およびヒトの乳腺正常細胞(184A1)、乳がん細胞(MCF-7、T47D)を用いて以下のように検討した。 1.WB、癌遺伝子導入WB細胞の放射線応答性と制癌剤応答性の違いを調べた。GJIC^+のWB細胞に比較して、特にGJIC^-の癌遺伝子導入WB-neuとWB-ras細胞は放射線に対し強い抵抗性を示した。WB,WB-ras,-mycはHDAC阻害剤に感受性でWB-src,-neuはWBに比しHDAC阻害剤に低感受性であった。 2.HeLa細胞は放射線およびHDAC阻害剤に感受性を示し、線量および薬物濃度依存的にアポトーシス誘導率を増加させた。一方、細胞を放射線照射前に低濃度のHDAC阻害剤で前処理することにより単独の場合に比べて高率にアポトーシスが誘導された。 3.HDAC阻害剤は低濃度でHPMC,184A1,MCF-7、T47DにおけるCx43mRNAおよびCx26mRNAの発現を増強した。 4.細胞死を誘発しない低濃度のHDAC阻害剤はHeLa細胞においてGJIC機能の顕著な亢進は認められなかった。 以上のことから、HDAC阻害剤は低濃度でがん細胞に細胞死を誘発する。その際、Cx遺伝子発現増強が観察されエピジェネテイックな影響を及ぼすことが推察された。一方、正常細胞におけるHDAC阻害剤の感受性には細胞種により差が認められた。HDAC阻害剤と放射線照射との相互作用に関してはGJIC依存性について更に検討が必要と考えられた。
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