研究課題
走査型電子顕微鏡による解析では、大動脈IMAレベルにおいて中膜・外膜の両者でcollagen fibrilの単位では加齢性変化や動脈瘤での病的変化は明らかでないが、fibrilが集束したcollagen fiberやbundleの単位では密度が疎になり、bundleの平坦化という加齢性変化があり、AAAではさらに顕著であった。フーリエ解析による定量解析では、正常の上行大動脈及びIMAレベル大動脈の中膜においては加齢によりbundleの方向性は強くなるが、IMAレベル大動脈のAAA群では方向性は失われていた。また中膜及び外膜のbundleの太さは正常群に比べてAAA群では有意に太かった。外膜膠原線維束波状構造の定性評価では、IMAレベルでは他部位と異なり若年では波状構造が強いが、加齢によりやや平坦化する傾向がみられた。光路差測定による定量解析では、外膜collagenの分子レベルの構造変化として、正常群におけるretardation値はIMAレベルでは他部位よりも有意に低値であり、AAA群ではさらに低値であった。免疫染色による中膜collagen subtype局在変化の解析では、正常群ではいずれのレベルでも加齢によりtype I占有率は増加するがtype IIIでは有意差はなかった。正常に比べてAAAではtype I占有率が低下するため相対的にtype III比率は高くなっていた。type Iが動脈壁の力学的強度を規定することから、中膜における強度がAAAでは低下していることが推測された。以上から正常大動脈のIMAレベルでは外膜のcollagen分子構造が未熟で加齢により波状構造が平坦化し、中膜のcollagen bundleの方向性が加齢により強くなるということより、正常大動脈のcollagenは部位特異性及び加齢性に構造変化を来すことが示された。また正常大動脈のIMAレベルでの外膜のcollagen分子構造の未熟性、加齢による波状構造の平坦化及びfibril密度の低下はAAAでさらに顕著となっていることから、AAAは動脈壁collagenの質の変化により形成されるということが推測された。しかし一方で、中膜bundleは加齢により方向性が強くなるのに対してAAAでは方向性が失われており、またtype I占有率は加齢により上昇するのに対してAAAでは占有率が低下していることなどより、AAA形成及び増大には部位特異性や加齢性変化とは異なる要因も関与していることが示唆された.
すべて 2009
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Journal of Vascular Surgery 49
ページ: 1162-1165