大動脈瘤罹患率は本邦においても増加傾向にあるが、外科手術が唯一の治療法である現状では、破裂死亡数の大幅な減少は期待できないため、病態解明と、より理想的な治療法開発が急務である。従来の研究から我々は、代表的ストレス応答分子c-Jun N-ternimal kinase (JNK)が、大動脈瘤治療における標的分子の一つであることを示した。実際ヒト大動脈瘤においてJNKは著明に活性化しているが、大動脈瘤の発症原因ならびにJNK活性化のメカニズムは不明である。研究代表者らは、大動脈瘤壁細胞の異常な伸展刺激がinflammasomeを介して大動脈瘤の中心病態である慢性炎症を引き起していると仮説した。平成19年度は、主たる大動脈瘤壁細胞であるマクロファージと血管平滑筋細胞の培養細胞を用いた伸展刺激実験系を確立し、伸展刺激によるJNK活性化と炎症性サイトカイン分泌を認めた。 平成20年度は、inflammasomeの構成要素であるASCの遺伝子欠損マウスを入手し、inflammasomeの抑制実験を行った。野生型マウス由来のマクロファージで観察された伸展刺激による炎症性サイトカインの分泌亢進は、ASC遺伝子欠損マウス由来のマクロファージでは、認められなかった。すなわち、伸展刺激による炎症応答メカニズムにinflammasomeが必須であることが示された。現在、大動脈瘤形成におけるinflammasomeの役割を検証するために、野生型マウスとASC遺伝子欠損マウスを用いて、瘤形成モデル実験を実施中である。
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