われわれは、固形癌は、その腫瘍内が正常組織に比べて嫌気的環境であることに着目し、嫌気性菌を用いて、新しいドラッグデリバリーシステムとして遺伝子を導入する事を着想した。現在までに、ヒト常在菌であるBifidobacterium longum(B.longum)菌を、担癌動物に静脈内全身投与すると腫瘍組織でのみ特異的に集積・増殖することを証明している。 また、Prodrug/Enzyme療法に用いられるCytosine Deaminase(CD)遺伝子を導入したB.longumを用いた担癌ラットの治療実験において、抗癌剤前駆体5-FCの併用療法により、担癌ラットの腫瘍内局所でのみ抗癌剤5-FUに変換され、腫瘍縮小効果があることを証明した。この治療法をBEST-CD(Bifidobacterial selective targeting-cytosine deaminase)療法と名付けている。 今回われわれは、Bifidobacterium breve(B.breve)を用いたBEST-CD療法実現の可能性を検討する目的でB.breve I-53-8w株にプラスミドpAV001-HU-eCDを導入。ウェスタンブロット解析にて組換え菌Bbr11-eCDのCDタンパク発現を確認した。さらに、プラスミド安定性試験で、50世代培養後も組換えB.longum菌に比べBbrll-eCDにおけるプラスミド保持率が100%であることを証明した。さらに担癌マウスへB.breveを全身投与した結果、腫瘍選択的成育性を証明した。 本治療法は腫瘍内に存在する菌濃度とその菌が産生する抗癌生理活性物質の量が治療効果に直結する。腫瘍内の末梢血管や細胞の間隙等限られた空間において選択的に成育すると考えられるこれらの菌は、菌自体が占める体積も菌濃度を考慮する上で重要な因子である。B.breveは、他のビフィドバクテリウム属と比較して短い菌形が特徴の菌であり、BEST-CD療法の安全性を向上させる意義が高いと考えられる。
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