研究概要 |
手術侵襲後の生体には恒常性を維持するために生体防御反応が起こるが,その反応が過剰であると術後合併症の要因となる。手術侵襲後の生体防御反応の解明およびその制御は術後合併症の予防や治療の点から重要である。代表的なadipocytokineであるadiponectinは脂肪細胞特異的に産生されるペプチドホルモンであり抗炎症作用を有することが報告されている。今回,adiponectinの手術侵襲後の生体防御反応および術後合併症発生への関与を検討した。食道癌,大腸癌手術症例を対象とし,術前,術後1,3,5,7病日の血中adiponectin濃度をELISA法にて測定した。adiponectinは,食道癌症例では術後第3病日まで低値が持続した後に回復するのに対して,大腸癌症例では術後第1病日に最低値を示し第3病日には術前値に回復した。次に,大腸癌症例のみを対象とし術後合併症発生群と非発生群で検討したところ,adiponectinは,両群とも術後一過性の低下した後に回復するが,合併症発生群では非発生群に比し術前から第7病日まで有意に低値であった。多変量解析にて術前adiponectin値の低下は術後合併症発生の独立した危険因子であった。以上の結果から,手術侵襲の程度により術後の脂肪細胞からのadiponectin産生能に違いが生じること,術後のadiponectin産生の低下は,その抗炎症性作用の抑制から過剰な炎症性反応を引き起こし術後合併症発生に関与する可能性があることなどを示唆された。脂肪細胞機能に着目した手術侵襲後の生体防御反応の解明とその制御は,術後合併症の予防に有力なアプローチになると思われる。
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