十二指腸液の食道逆流による食道腺癌発生モデルにおいて、ウルソデオキシコール酸(UDCA)とメシル酸カモスタット(CMM)による発癌への影響を検討した。7週齢のWistar系雄性ラットを用いて胃全摘術を施し、空腸を起始部から約4cmの部位で食道断端と端側に吻合(Schlatter法)して十二指腸食道逆流モデルを作製した。手術を施行したラットをcontrol群、UDCA投与群に分けて、control群には固形飼料CRF-1を、UDCA投与群には0.4%UDCAを混入した固形飼料を経口的に投与し、40週間観察した。術後40週目に開腹し、総胆管に24G留置針を留置して胆汁を採取した後に、ジエチルエーテル深麻酔により犠牲死させ迅速に全食道を吻合部空腸とともに摘出した。摘出した食道はHE染色により病理組織学的に検討した。また胆汁は高速液体クロマトグラフィー法により胆汁酸分析を行った。病理組織学的にはcontrol群に比してUDCA投与群において食道炎に伴う増殖性変化は軽度であった。Control群ではバレット食道(BE)が60%に、異形成が60%に、癌が60%に認められたのに対してUDCA投与群ではBEが20%に、異形成が10%に、癌は10%に認められ、各々の発生率は有意に抑制されていた。胆汁酸分画の結果は平均で、control群ではUDCAが1.2%、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸等UDCA以外の分画が98.8%であったのに対してUDCA投与群ではUDCAが69%、それ以外の分画が31%であり、細胞毒性の有しないUDCAの分画が著明に増加していた。以上よりUDCAは細胞毒性の強い内因性胆汁酸の割合を減じることにより、十二指腸逆流によるBEや食道発癌を抑制し得ることが示唆された。現在、胆汁酸のリセプターであるFXRやcyclooxygenase-2などの発現を検討するとともに、メシル酸カモスタット投与群についても調査を行う予定である。
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