研究概要 |
消化管周囲の所属リンパ節は、消化管内の異種抗原に対する消化管免疫や、腫瘍免疫に重要な役割を果たしており、なかでも樹状細胞(Dendritic cell; DC)は強力な抗原提示細胞として注目されている。またMicormetastasisと呼ばれる微小なリンパ節転移は、宿主の免疫により排除される可能性も含め実際にリンパ節転移として成立していくかどうか不明である。本研究では胃癌所属リンパ節内での免疫応答としてDCの活性化に着目し、所属リンパ節において微少転移とDC活性化を指標とする腫瘍免疫の関係を明らかにする事を目的とした。平成19年度の研究結果によって顕微鏡的に観察可能なリンパ節転移が成立した状態では既にDCによる免疫応答が終了している事が判明した。そこで当該年度では、所属リンパ節郭清を伴う根治手術を施行した術前リンパ節転移陰性胃癌患者25例の613個のリンパ節よりRNAを抽出しRT-PCR法による分子生物学的手法を用いて、リンパ節内微小転移の検出を行った。その結果613個中15個2.45%のリンパ節に微小転移を検出した。これらは病理学的に全例リンパ節転移陰性であった。次にこれらのリンパ節内でのDC活性化状況を検討したところ微小転移陽性リンパ節では、活性DC由来のCD83,CD86 mRNAの高発現が確認された。CD83, CD86 mRNAは微小転移陽性リンパ節で最も高発現であったが、転移陽性症例における転移陰性リンパ節内でも高いCD83, CD86 mRNAの発現が認められた。以上より胃癌所属リンパ節においては微小転移が成立する前段階で、樹状細胞の成熟による免疫応答が認められ、この反応は所属リンパ節内で広範囲に認められることが明らかとなった。しかし顕微鏡的に癌細胞集塊が確認できる転移状態ではDCの活性化は低下しており免疫応答反応は終息していると考えられた。本研究は胃癌のリンパ節転移の成立と宿主免疫の関係を考察する上で重要な意義をもつと考えられた。
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