研究概要 |
下咽頭頚部食道癌に対する外科的治療では,解剖学的理由により根治性を確保するためには喉頭摘出を余儀なくされる場合がほとんどであり,その場合患者の術後QOLが問題となる。我々は遊離回盲部移植法(Kawahara 1992)による音声再建手術を2003年より導入し,これまで18名の患者に施行してきた。本研究では,遊離回盲部移植術後の音声機能と嚥下機能を客観的に評価することにより,遊離回盲部移植術の有用性の根拠を示すことを目的としている。 術後6〜39ヶ月の患者を対象に,主にVideofluorographyによる嚥下機能評価とアンケートによる音声機能評価を行った。遊離回盲部移植法では,シャント内への造影剤の逆流は認めず,また従来の遊離空腸移植法に比較して,造影剤のグラフト内逆流が少なく,グラフト通過時間が短い傾向にあった。これらは,回盲部の解剖学的特性によるものと考えられた。術後音声機能は88.9%で獲得可能であったものの,得られた音声機能には症例により差が認められ,日常生活で積極的に音声機能を使用しているのは30.8%にとどまった。 術後QOLの更なる向上のためには,再建された音声機能,嚥下機能の質をさらに高めていくことが必要である。今後,これら機能の客観的評価を継続し,そのメカニズム,機能に関する因子を明らかにしていく。さらに,その評価を術後のリハビリテーションの指標とし,機能向上を目指した術式の改良,新規術式の開発を目指す予定である。
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