ゲノム刷り込み遺伝子LIT1/KCNQ10T1は、ヒト11p15.5領域に位置する父性発現の刷り込みを受けるnon-coding RNA遺伝子である。このLIT1の発現異常はBWSの発症や大腸がんなどのがん化と密接な関わりがあることが示されている。CpGアイランドの欠失によるLIT1の発現消失より、母性発現を呈する周辺刷り込み遺伝子(KvLQT1/KCNQ1、SMS4/KCNQ1DN、p57KIP2/CDKN1C)の発現低下を示した。これらのことより、LIT1はKvLQT1、SMS4、p57KIP2のサイレンシングに働き、クロマチンドメインレベルで遺伝子発現をシスに制御するインプリントセンター(IC)として機能する可能性が示唆された。 本研究においては、non-coding RNA LIT1が関わる遺伝子発現制御機構を明らかにするために、Fluorescence in situ hybridization(FISH)法を利用してRNA分子を可視化させ、細胞内の発現動態を解析した。その結果、LIT1 RNAはヒト正常リンパ球由来細胞株、ヒト正常線維芽細胞において高頻度に間期核内で検出され、このRNA分子はLIT1 DNA近傍に局在していた。さらにLIT1 RNAは、周辺領域(SLC22Al8/IMPT1やp57KIP2/CDKN1C)を含むクロマチン上に集積することがFiber RNA-FISH解析およびRNA TRAP(tagging and recovery of associated proteins)法により観察された。一方、ヘテロクロマチン領域特異的に集積が認められるH3K9およびH3K27のトリメチル化などのエピジェネティクスの変化は見出せなかった。これらのことより、LIT1 RNAは細胞周期を通して安定にLIT1 DNA周辺領域に局在し、non-coding RNAによるクロマチン構造の変化がドメインレベルの遺伝子発現制御に重要な役割を担っていることが示唆された。
|