これまで、LIT1 RNA分子は、細胞周期を通して安定にLIT1 DNA周辺領域に局在・集積することにより、ドメインレベルの遺伝子発現制御を行っていることを明らかにした。 ゲノム刷り込みの消失( Loss of imprinting; LOI)は、がんで頻繁に観察される遺伝的な変異のひとつであり、刷り込み機構の破綻は、がんの発生や進展において重大な意味を持つ働きをしていると考えられている。とくにLIT1においては、 Wnt signal pathwayの変異が数多く認められる大腸がん細胞株において高頻度のLOIをともなう発現異常が報告されている。 本年度においては、大腸がんにおけるLIT1の役割を明らかにすることを目的に、 Wnt signal pathwayに関わる主要な分子であるβ-catenin/TCFのLIT1発現制御に関与する可能性について、 RNA-Fluorescence in situ hybridization (RNA-FISH)法およびクロマチン免疫沈降(ChIP: Chromatinimmuno precipitation)法により検討した。その結果、 SW480、 DLD-1、 HCT15細胞の大腸がん細胞株において、 LIT1のLOIやRNAシグナルの拡大が観察され、 LIT1の発現異常(過剰発現)が認められた。さらに、 LIT1プロモーター領域内においてβ-catenin/TCFの結合が認められた。 これらのことより、大腸がん細胞株では、過剰なβ-cateninがLIT1プロモーター領域に相互作用することにより、 LOIやRNAシグナルの拡大を含むLIT1の発現異常を引き起こす可能性が示唆された。
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