研究概要 |
我が国では胃癌の早期発見が増加し、胃癌の手術治療による治療成績も向上し、外来での長期follow-upが必要となっている。このfollow-upにおいてこれまで再発を以下に発見するかに重点が置かれてきた。しかし、長期間無再発での外来follow-upが増加している現在、胃を切除したことによる障害に対するfollow-upも不可欠になってきている。この障害を押さえることは現在求められている医療費の抑制にも通じている。骨粗鬆症やメタボリック症候群を改善することで医療費が抑制されるとも言われており、この胃癌術後の障害についての研究は今後重要なものとなると考える。 胃癌術後の経過観察において様々な後遺症としての症状の訴えがある。多くはdumping症候群の症状として扱われていると考えられる。腰痛、肩こり、めまいやふらつき、しびれなどの不定愁訴もよく外来診療で経験するが、加齢のための症状であるなどとして放置されていることが多く、確実な対処ができているとは言えない。最近我々はめまいやふらつきを訴える症例を精査し、その原因がビタミンEの欠乏であった症例を経験し報告している(上田直久、利野靖、他:胃摘出後のビタミンE欠乏による神経合併症の治療.脳と神経、57(2) : 145-148, 2005.)。胃癌術後に脂肪吸収が障害される事が報告されているにもかかわらず、脂溶性ビタミンであるビタミンDについては胃癌の術後の骨障害とともに報告されている(Rino Y, Imada T, et al : The efficacy of 1α hydroxy vitamin D3 treatment of the metabolic bone disorder inpatients who underwent gastrectomy for gastric cancer. Hepato-gastroenterology, 47 : 1498-1500, 2000.、Rino Y, Imada T, Yukawa N , et al : Bone disorder and vitamin D after gastric cancer surgery. Hepatogastroenterology. (now printing))。しかし、ビタミンA、ビタミンEの低下について、詳細な検討を加えた報告はない。そこで胃癌手術後に脂溶性ビタミン、特にビタミンAとEが低下するのか否かをみるため、またどのような臨床病理因子との関連性を持つのかを明らかにすることを目的として本研究を計画した。
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