研究概要 |
本研究の目的は治療方法の確立していない胃癌腹膜播種に対して、新しい治療方法を確立することにあった。申請内容に沿って研究を進めて以下の結果を得た。 (1)ラトルンキュリン投与後の副作用に関して、薬剤投与後1ヶ月で血液検査を行ったところ有意な骨髄抑制・肝機能障害・腎機能障害などは認めなかった(N=10)。また、組織における異常を同定するためにHE染色を行ったが、明らかな異常所見は認められなかった。 (2)低分化細胞癌(MKN-45)や印環細胞癌(NUGC-4)による腹膜播種モデルに対してラトルンキュリン投与後長期生存を調査したが、投与例の20%で6ヶ月以上生存しており腹腔内の腫瘍再発を認めなかった。 癌細胞のアクチン系細胞骨格を標的とする新しい抗がん剤の候補としてラトルンキュリンが有望であり、マウスにおいては(少なくとも腹腔内では投与)明らかな副作用は認めなかった。狙い通りの結果が得られたと考えている。今後の課題は、ヒトに対する投与法の実用化研究と安全性の確認である。 本研究の具体的な意義:実用化できれば、年間約10万人が罹患して5万人以上が死亡している胃癌症例の治療成績向上につながると思われる。対象と考えているのは低分化胃癌や印環細胞癌の腹膜播種症例だけではなく、腹膜播種をきたす可能性の非常に高いスキルス胃癌や深達度seの胃癌である。投与時期としては、周術期を含めた投与法も検討すべきと考えている。なお、研究内容はAnticancer Research(Vol.29 No.6,2009)に掲載予定である。
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