昨年度までの研究結果から、VEGF受容体(VEGFR)およびPDGF受容体のリン酸化阻害作用を有するKi23057は大腸癌細胞に対しての作用は少なく、血管新生を抑制することにより大腸癌の増殖、転移を抑制することが判明した。また、抗癌剤やCOX-2 inhibitorの併用効果の有用性も判明した。本年度は、VEGFRに注目し、膵癌細胞におけるVEGFRの発現と抗VEGF抗体およびVEGFR阻害剤が膵癌細胞の増殖能および浸潤能におよぼす影響を検討した。 【方法】膵癌細胞株(MIAPaCa-2、OCUP-AT、Panc-1)を用いた。VEGFRの発現をRT-PCRを用いて、検討した。抗VEGF抗体(ベマシツマブ)およびVEGFR-2のリン酸化阻害剤(スニチニブ)を用いて、膵癌細胞の増殖能および浸潤能に及ぼす影響を検討した。VEGF-A/VEGFR-2シグナルのリン酸化をウェスタンブロットにより検討した。 【結果】MIAPaCa-2およびOCUP-ATはVEGFR-2を高発現していた。いずれの細胞株においても、VEGF-Aの投与により増殖能に変化は認めなかった。しかし、VEGF-Aの投与により、VEGFR-2を高発現しているMIAPaCa-2、OCUP-ATにおいて浸潤能の亢進を認めた。一方、VEGFR-2の発現が低いPanc-1ではVEGF-Aによる浸潤促進効果は認めなかった。MIAPaCa-2およびOCUP-ATはVEGF-Aの添加により、VEGFR-2シグナルがリン酸化され浸潤能が亢進された。ベマシツマブおよびスニチニブは浸潤能を抑制した。また、VEGFR-2 siRNAにより浸潤能が抑制された。 【考察】VEGF-A/VEGFR-2シグナルは、膵癌細胞の浸潤能に関与しており、VEGF/VEGFR阻害剤が膵癌治療に有用である可能性が示唆された。
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