研究概要 |
【目的】DNAメチル化異常は癌のみならず、癌発症の背景となる非癌部炎症組織等にも認められる。我々は、潰瘍性大腸炎で長年炎症に暴露された組織のメチル化異常に着目し、そこに蓄積された癌化に関わる異常を網羅的に捉えることにより、潰瘍性大腸炎の癌易罹患性を評価した。【方法】担癌潰瘍性大腸炎;背景粘膜組織(CN群)6例、癌組織(CT群)6例と非担癌潰瘍性大腸炎粘膜組織(1群)16例を対象とした。9,654箇所のNotI領域の異常メチル化を検出できる「DNA array MS-AFLP」を用い、正常大腸粘膜を比較対照(cut-off値2倍)としてメチル化、脱メチル化異常を評価した。またMulti Experimental Viewer (MeV)を用いメチル化プロファイルの比較、クラスタリング解析を行った。【成績】メチル化異常/脱メチル化異常(平均±SD)は1群2.0%±1.0/1.3%±0.50, CN群2.4%±0.76/2.4%±1.1, CT群4.1%±1.7/3.5%±2.0であり、I群、CN群、CT群と段階的な変化を認めた。MeVを用い染色体ごとのメチル化プロファイルを比較すると、CN群ではCT群と高度に類似し、I群は炎症の程度や原疾患の罹患年数に応じてCT群に類似する傾向が認められた。すなわちCN群、CT群に共通する癌化に関連する異常メチル化・脱メチル化異常がI群で徐々に蓄積され、I群での高頻度な異常メチル化は発癌の高い危険性になると考えられた。クラスタリング解析では、CN群、CT群に共通するメチル化異常は66カ所、脱メチル化異常は273カ所に認められ、これらの遺伝子または領域が潰瘍性大腸炎の癌化に関わっている可能性が示唆された。【結論】潰瘍性大腸炎における炎症粘膜のメチル化異常を網羅的に検索することで、発癌の危険性を予測し得ると考えられた。
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