研究概要 |
本邦では現在大腸癌が増加しており、大腸癌による死亡率を減少することが重要な課題となっている。大腸癌の外科治療後は、肝転移が予後を規定する重要な因子であるため、肝転移を来すハイリスク症例を選別できれば、ハイリスク症例に対して積極的な術後補助化学療法、あるいはintensiveな術後フォローアップを行うことにより、大腸癌外科治療後の予後の向上が期待できる。今回、DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析により、大腸癌の外科手術後に肝転移を来す症例を予測し、大腸癌に対するテーラーメイド治療を可能にすることを目的とした。 外科的切除が行われ、手術時に切除された大腸癌組織が直ちに凍結して保存されていて、術後5年以上経過観察されて遠隔転移の有無が確認されている症例のうち、大腸癌組織を用いた遺伝子研究に対してインフォームドコンセントが得られている症例と対象とした。まず、80症例をtraining setして凍結標本よりSepazolを用いtotal RNAを抽出し、T7-oligo(dT)24primerを用いcDNAへ逆転写後、biotin標識cRNAを合成し、Affymetrix社のGeneChipにハイブリダイズして大腸癌発生及び転移や薬剤感受性に関連が考えられる約54,000種類の遺伝子発現解析を行った。肝転移の認められた16例と認められなかった64例の間で有意に発現の差のあった34遺伝子を抽出した。この34遺伝子を用いて、肝転移の予測式を作成した。予測式を作成する際には、GeneSpring(silicon genetics社)を用い、leave-one-out法の一種であるKNN法にて行った。この結果、予測精度72.5%で肝転移の有無の予想が可能であった。次ぎに予測式のvalidationを行うためにtest setとして更に独立した20例の解析を行った。予測式で肝転移の有無を予測した結果70,0%の精度で肝転移の有無の予測を行うことが可能であった。今後、本予測式により、大腸癌術後の肝転移再発の高リスク例でintennsive follow upあるいは強力な術後補助化学療法を要する症例の選別ができる可能性が示唆された。
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