食道癌治療において外科的アプローチと内視鏡的アプローチの侵襲度の差が大きいため、早期食道癌治療に対して内視鏡的切除の拡大適応が期待されている。近年、食道の内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)手技が開発され、大きな病変でも一括切除可能となったが、そのために引き起こす潰瘍瘢痕のために、患者はESD後に頻回の内視鏡的バルーン拡張術を受けることが稀ではない。そこで我々は、ESDに伴う人工食道潰瘍の創傷治癒の促進と狭窄の防止を目的として、自己由来の口腔粘膜上皮細胞から作製した培養口腔粘膜上皮細胞シートを潰瘍面に経内視鏡的に移植する再生医療的治療を開発に関する研究を進めてきた(T.Ohki Gut2006;55:1704-1710)。 我々が行ってきた研究から、通常行われるような半周程度の食道ESD後の人工潰瘍であれば培養口腔粘膜上皮細胞シートの経内視鏡的移植術は比較的安定して移植可能である。しかしながらバッレト食道に由来するような全周性に及ぶ病変に対する食道ESDの場合、培養口腔粘膜上皮細胞シートの移植手技は容易でなく、またその治療効果が不明である。 本研究は、全周性の食道ESD後の人工潰瘍に対して従来と同様に正方形の培養口腔粘膜上皮細胞シートの量(24mm×24mm×2枚)を従来の移植手技で移植し、その治療効果を評価した。内視鏡画像的に移植部位の培養口腔粘膜上皮細胞シートの生着と組織学的に潰瘍面の早期の上皮化を確認できたが、ある程度の狭窄抑制は認めたものの、完全な食道狭窄の抑制はできなかった。原因として十分な培養口腔粘膜上皮細胞シートの移植量(面積)が不足していると思われた。よって全周性の食道ESD後の人工潰瘍に、培養口腔粘膜上皮細胞シート移植を全周性に移植できるような新規移植デバイスの開発が急務と考えられた。
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