マウスによるChlP法(クロマチン免疫沈降法)を応用した転写因子のターゲット遺伝子解析および機能解析を行うことにより、肝の再生等の病態におけるSTAT3の活性化機序および細胞機能への影響を検討した。 マウスを用いた動物モデル : (1)肝特異的STAT3ノックアウト(KO)マウス、(2)PDK1遺伝子KOマウス、(3)STAT3/PDKIダブルKOマウスを作成し、70%肝切除後肝再生実験をおこない、転写因子STAT3の新たなターゲット遺伝子探索と肝再生におけるSTAT3の役割解析を行った。 (1)肝特異的STAT3KOマウスにおける肝切除モデル 肝特異的KOマウスSTAT3-KOマウスにおいては、肝細胞増殖はほぼ完全に抑制されていたが、肝細胞内のPDKI/Akt経路が代償性に活性化して肝再生を維持していた。逆に、活性型STAT3を肝細胞に導入することにより、肝細胞分裂は著明に増加した。ChlP法をもちいた検索により、STAT3の新たなターゲット遺伝子として、net遺伝子を見出した。Net遺伝子は、肝細胞にてSTAT3によりその発現が制御されており、肝再生に何らかの影響を与えていた。 (2)PDK1遺伝子KOマウスおよび(3)STAT3/PDK1ダブルKOマウスにおける肝切除実験 しかし、PDK1のKOマウスあるいはPDK1/STAT3ダブルKOマウスによる肝切除実験では、STAT3機能は十分に保たれていたが、肝はほとんど再生せず、致死的ですらあった。STAT3自体は、CyclinD1、MycあるいはNetなどを制御して、細胞増殖をコントロールすることにより、肝再生にかかわっていたが、PDK1経路は肝再生においてはより本質的な役割を果たしていると考えられた。 本研究では、肝再生におけるSTAT3の役割と新たなターゲット遺伝子を同定した。また肝再生で本質的な役割を果たすものとして、PDK1/Aktの作用を確認した。
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