研究概要 |
がん間質相互作用は,腫瘍細胞の生物学的特性の形成に関与するばかりでなく,発生臓器の機能にも悪影響を与え,がん治療戦略の重要なテーマの1つである.肝炎・肝硬変等の肝線維症を背景として発症する肝癌は,肝線維症において重要な役割を担う,肝星細胞(hepatic stellate cell : HSC)との相互作用は肝癌の生物学的特性に多大な影響を与えている可能性がある.本研究課題では,肝癌細胞株および肝HSC初代培養細胞株を用いて,肝癌-HSC間の相互作用について解析を行った.肝癌細胞株およびHSCいずれにおいても,肝内に豊潤に存在するangiotensin II(AngII)の影響を受け,細胞増殖能および細胞浸潤能を上昇させることが明らかとなった.さらに,この背景にはAngII-a disintegrin and metalloprotease domain(ADAM)-epidermal growth factor receptor(EGFR)のクロストークによるsHB-EGF(soluble heparin binding EGF)の分泌が関与していることが明らかとなった.さらに,現在降圧薬として頻用されているangiotensin receptor blocker(ARB)は,肝癌-HSC間の相互作用を抑制し,肝癌細胞の増殖能および浸潤能を抑制する効果をしめした.AngII-ADAM-EGFRのクロストークによる肝癌細胞-HSC間の相互作用はARBによる抑制が可能であり,新たな肝癌・肝線維症治療の標的分子となる可能性が示唆された.
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