肺癌手術、特に胸腔鏡手術において、術前に肺動静脈の走行、葉間の不全分葉・癒着、リンパ節腫大の有無・位置を正確に同定し、術前および術中に手術のシミュレーションを行うことができれば、手術の安全性、確実性は高まり、術者への負担も少ない手術とると共に、呼吸器外科医の教育にも有益なものになるものと考えられる。平成20年度は右肺上葉切除患者を対象として術前のシミュレーション下ナビゲーション手術を施行した症例(S群、n=10)とシミュレーションを施行しない症例(C群、n=10)の比較検討により、術前シミュレーション下ナビゲーション手術の有用性と問題点を検討した。手術時間の計測では各群ともに術中迅速診断を行った症例ではこれに要した時間は省略し、郭清はND1および上縦隔リンパ節郭清を施行した。平均手術時間はS群2時間15分、C群2時間37分とS群で短い傾向を認めた。ステープルの1症例あたりの使用本数は肺動脈/肺静脈/葉間の順にS群では2.1個/1.1個/3.2個、C群では2.4個/1.2個/3.9個であった。シミュレーション下ナビゲーション手術では術前の3D画像からは葉間の不全分葉なしとされた症例でも癒着等にて葉間が強固に癒着していたりする症例があり、葉間の分葉の評価にはさらなる工夫が必要であると考えた。また、術前の3D-CT画像、PET所見からリンパ節の腫大状況を解剖学的シミュレーション画像として正確に把握することも今回の検討からは困難であり、今後の検討課題であると考えた。これらの肺癌に対するシミュレーション下ナビゲーション侵襲手術に関する研究にて、低侵襲手術の安全性、確実性を増すと共に、教育にも役立ち、医療従事者および患者に優しい手術の確立にむけて貢献し、その成果は国際学会でも発表し高い評価を得た。
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