研究課題
本研究は小口径人工血管の長期開存性の向上を得る遺伝子治療の開発を目的としている。研究計画書の通り、治療用遺伝子としてヒトPD-ECGF(/hTP)、対照遺伝子としてLacZ遺伝子を用いることとした。これらを組み込んだプラスミドベクター(pCIhTP、pCILacZ)を作製し、遺伝治療に用いる為大量精製した。動物モデルとして当初はイヌ頸動脈バイパスモデルを用いて評価を行う予定であったが、後にイヌ頸動脈モデルでは血管径が比較的大きく(>4mm)、また吻合部における新生内膜肥厚が生じにくいことなどの理由により、予定を変更し、より小口径で明確な治療効果の判定が可能であると考えられたNew Zealand White rabbit(体重3-4kg)の腹部大動脈バイパスモデルを用いることとした。人工血管はWoven Dacronグラフト(2、3、4mmノンコーティング)を(株)UBE循研に作製依頼した。更に比較対照としてePTFEグラフト(2、3mm)も用いることとした。まずコントロールとして遺伝子を投与しないバイパスモデルの作製を行った。上記New Zealand White rabbit(体重3-4kg)を全身麻酔科にて開腹。腹部大動脈を剥離・遮断し、長さ25mmの人工血管にて置換(吻合は8-OPROLENE連続縫合)した。抗凝固は術中にヘパリン(200IU/Kg)を静脈内投与し、術後アスピリン(15mg/kg/day)を経口投与した。しかし、Woven Dacronグラフト群では全例術後2〜3日で死亡し、剖検すると人工血管は全例に血栓閉塞を認めた。このままでは本研究の課題の一つである晩期の血管平滑筋増殖による新生内膜肥厚の評価を行うことが困難となるため、術中術後の抗凝固療法の見直しが必要であると考えられた。一方、ePTFE群では早期血栓閉塞症例は認めず、PD-ECGFを投与した群では内膜の肥圧が抑制される傾向があることを認めた。現段階では術後のアスピリン投与の調節を行っており、今後はそれに引き続き遺伝子治療効果の判定を行っていく予定である。