研究概要 |
本研究の目的は,肺癌の副腎転移における臓器特異性の発現機構の解析を行うことである.肺癌の副腎転移の研究に適した細胞培養および動物での実験系が存在しなかったため,第一段階は実験系の確立であった.前年度までの研究結果から,通常の動物実験系では副腎転移の作成が困難であることが確認されたため,組織培養法を用いた実験モデルを作成した.ヒト非小細胞肺癌培養細胞株6種を用い,ヌードマウスの副腎を約1mm厚の組織片とし細胞株とともに7日間培養し,割面上に生着し増殖し得た細胞を回収し検討に用いた.コントロールとして肺,肝,腎,骨,骨格筋で同様の検討を行い,合計5継代した.結果,細胞株PC-14において副腎および肺,腎,骨,骨格筋上で培養されたsubcloneを得た.副腎上での培養に由来するsubcloneをヌードマウスに移植したところ,40%の頻度で副腎転移の形成を確認した.さらに,PC-14の副腎および肺,腎,骨,骨格筋由来のsubcloneを用いて細胞外基質のfibronectin(FN),type I collagen(CL),laminin(LN),vitronectin(VN)に対する接着能の変化を検討したところ,originalのPC-14に比し,副腎由来株ではFNとVNに対する接着能の低下,CLとLNに対する接着能の亢進を認めた.他臓器由来のsubcloneの変化と比較した場合,LNとCLの接着能の増強が特徴的であり,特にCLで副腎において最も強い接着能の亢進が認められた.これらの細胞外基質への親和性の変化は副腎転移の臓器選択性の機序に関与している可能性があると考えられる.
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