研究概要 |
本研究の目的は,肺癌の副腎転移における臓器特異性の発現機構の解析を行うことである.肺癌の副腎転移の研究に適した細胞培養および動物での実験系が存在しなかったため,第一段階は実験系の確立であった.2009年度までの研究結果から,通常の動物実験系では副腎転移の作成が困難であることが確認されたため,組織培養法を用いた実験モデルを作成した.ヒト非小細胞肺癌培養細胞株PC-14を用い,ヌードマウスの副腎を約1mm厚の組織片とし細胞株とともに7日間培養し,割面上に生着し増殖し得た細胞を回収し検討に用いた.コントロールとして肺,肝,腎,骨,骨格筋で同様の検討を行い,合計5継代した.結果,細胞株PC-14において副腎および肺,腎,骨,骨格筋上で培養されたsubcloneを得た.副腎上での培養に由来するsubcloneをヌードマウスに移植したところ,40%の頻度で副腎転移の形成を確認した.PC-14の副腎由来のsubcloneとoriginalのPC-14について、マイクロアレイを用いて遺伝子発現の変化を検討したところ,副腎由来のsubcloneでは,originalに比し,6種のsmRNA, DUSP1などの計8遺伝子の発現増加を確認したが,接着分子の関連性は低いと考えられた.明らかな発現低下は2遺伝子であった.他臓器由来のsubcloneの変化と比較した場合,副腎由来株での発現変動遺伝子数は少なく,また,DUSP1の増強以外は副腎転移において特徴的であった.これらのうち肺癌の予後因子として知られる既知のものとしてはCALB1が一致していた。副腎転移を規定する分子機構として、このCALB1遺伝子産物の変化が第一候補として考えられる.
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