研究概要 |
悪性胸膜中皮腫はアスベスト曝露をその主な原因とする職業性・環境性疾患であり、今後、罹患数、死亡者数ともに増加が予想される。しかしながら、早期診断は困難であり、診断時には進行期である事が多く、依然予後不良の疾患である。本疾病の腫瘍発生・進展の特徴は、一側胸腔内をびまん性に進展することである。ゆえに細胞接着因子、受容体遺伝子、細胞周期関連遺伝子などの増殖・進展に関するシグナルを有する因子の解析を総合的に行うことを本研究の目的にし、解析を行い、以下の成果を得た。 接着因子解析:胸膜中皮腫10症例(男性9例、女性1例、平均年齢65.2才、Epithelioid 6例、Sarcomatoid 3例、Biphasic 1例)において細胞接着因子(E-Cadherin、α-Catenin、β-Catenin、γ-Catenin)とp53の蛋白発現を解析し、発現低下をE-Cadherin、α-Catenin, β-Catenin, γ-Cateninそれぞれ40%,100%,30%,90%の症例に認めた。p53発現異常は1例のみであった。 増殖因子変異解析:上皮成長因子受容体(Epidermal growth factor receptor: EGFR)遺伝子変異、K-ras遺伝子codon12変異の有無は、悪性胸膜中皮腫10症例において認められなかった。 細胞株樹立:悪性胸膜中皮腫の手術症例から、2例の細胞株の樹立に成功した。今後、樹立した細胞株を用いて、細胞接着因子の発現減弱の分子機構および細胞外気質の解析をin vitro, in vivoで行なう予定である。 免疫学的解析:中皮腫における腫瘍局所の液性免疫応答を解析し、4種類の抗原遺伝子を同定し、これらの遺伝子の発現解析および胸膜中皮腫症例での血清抗体価の解析を行った。腫瘍浸潤B細胞由来の抗体が認識する4種類の腫瘍抗原を同定した。4つの抗原のうち、現時点で解析可能な2抗原に対する血清抗体価は、胸膜中皮腫患者において有意に高く、腫瘍マーカーとしての有用性が示唆された。
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