研究概要 |
当該年度は、ヒト肺癌由来培養細胞を用いて、低酸素下における遺伝子発現の検討、転移能の変化及び遺伝子発現の変化を検討した。また、HIF阻害剤TX-402のin vitro及びin vivoにおける効果について検討した。 1.ヒト肺癌細胞株A549細胞を1%酸素濃度(低酸素)下で培養し、常酸素濃度下で培養した細胞と肺胞分化マーカー遺伝子(CCA,AQP5,SP-C)及び幹細胞マーカー遺伝子(CP133,0ct-4)の発現をRT-PCRで比較したところ、低酸素下ではCCA,AQP5及びSP-Cの発現がいずれも低下し、逆にCD133及びOct-4の発現が亢進することが判った。また、低酸素処理によりA549細胞の実験的肺転移能が亢進することも判った。さらに、TX-402は低酸素によるこれらの遺伝子発現及び転移能の変化を阻害することが明らかになった。 2.A549細胞の皮下腫瘍を形成させたヌードマウスの腹腔内に低酸素領域に集積するEF5を投与した。採取した腫瘍から凍結切片を作製し、抗EF5抗体と抗CD133抗体を用いた免疫二重染色を行った。その結果、CD133の発現が低酸素領域で上昇していることが判った。 3.ヌードマウスの肺にA549細胞を1X10^6個同所移植し、移植3日後から2種類の濃度(12.5mg/kg、25mg/kg)のTX-402あるいは生理食塩水を3日毎に9回腹腔内投与した。移植後49日目にマウスを屠殺し、転移の有無を観察した。その結果、高濃度のTX-402投与群では、PBS投与群に比べ、縦隔及び腋下リンパ節への転移が抑制されている傾向が認められた。 以上の結果より、TX-402が低酸素によるA549細胞の脱分化および転移能の亢進を阻害することが明らかになった。A549細胞の肺同所移植実験系においても、TX-402がリンパ節転移を抑制する傾向が観察された。今後、TX-402投与スケジュールの検討により、転移抑制効果をさらに検証する予定である。
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