研究概要 |
本研究は脳循環自動調節能のメカニズムを、ウサギくも膜下出血モデルを用い分子生物学的に解明することを目的とした.平成19~20年度に以下のような結論得た. ウサギにおいて48時間間隔で大槽内に自家動脈血を2回注入することでくも膜下出血を作成し、5日後に評価を行った (1).脳循環の自動調節能の評価(laser-Doppler flowmetryによる脳血流量の測定で判定)では,くも膜下出血群で自動調節能の破綻が示された.(2)脳内細動脈のリモデリングの評価(ミオシン重鎖アイソフォームの免疫染色とreverse transcription-polymerase chain readtion,脳内細動脈の組織学的所見などで判定)では,くも膜下出血群では脳内細動脈のリモデリングが生じることが示された. これらをもとに平成21年度は,自動調節能の破綻に対する治療の可能性を検討した.Nuclear factor-kappa B、transforming growth factor-beta 1、matrix metalloproteinasesなどのリモデリングに影響を与える可能性のある物質を抑制するために,それらの遺伝子のアンチセンスDNAの髄腔内投与を行った.しかし,自動調節能の破綻および脳内細動脈のリモデリングともに変化は認められなかった.これは,髄腔内投与されたアンチセンスDNAが脳内細動脈まで充分到達しないことが原因と考えられた.そこで平滑筋細胞内の情報伝達系を修復する可能性のある薬剤として,特にその持続的収縮を抑制する作用を有する塩酸ファスヂル(静脈内投与)とスタチン(経口投与)の効果を検討した.結果として,両薬剤ともに自動調節能の破綻および脳内細動脈のリモデリングを抑制したことから,くも膜下出血後の脳循環自動調節能破綻の治療薬として応用し得る可能性が示唆された.
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