研究概要 |
片麻痺回復の脳内機序については,過去1年間に当科を受診し,入院,加療をうけた皮質下梗塞5例(視床2例,被殻3例),出血7例(視床2例,被殻5例)において検討している。いずれも発症時意識障害軽度,不全片麻痺を認める小病変(梗塞では2cm,出血では3cm以下)例で,急性期状態を脱した2週-1ケ月後より,MRIを用い病変の大きさの変化を検討すると共に,片麻痺の回復についてはNIHSSを用い総合的に判定している。さらに,PET scanを用い,定期的に安静時,及び麻痺側上肢随意運動負荷時の脳内病態を解析している。一方,今回の研究テーマの一つである上行性運動感覚信号については,振戦例における視床腹中間核手術(凝固術)結果より,視床,大脳皮質における投射領域を含め種々の解剖,生理学的検討を行った。fMRIを用いた研究により,本態性振戦患者右手振戦例6例において患側上肢手関節の受動的屈曲、伸展を行うと,左側大脳皮質中心溝部が賦括されることが明らかとなった。さらに,振戦の治療として,微小電極法により視床腹中間核最外側部において上行性運動感覚信号を捉え,記録部位を含んで最小の凝固巣を形成すると,術後大脳皮質中心溝底部でこの賦括の程度が減弱することが明らかとなった。患側上肢手関節の受動的屈曲、伸展課題では,患側上肢からの固有知覚性,及び表在知覚性信号が皮質中心溝部に伝えられ,これによりローランド皮質は広く賦括されているものと思われる。一方,視床腹中間核の凝固により視床において固有知覚入力が断たれたため,術後,大脳皮質中心溝底部における賦括が減弱し大脳皮質中心溝付近においてギャップを伴う賦括パターンとなったことが推定される。すなわち,随意運動を行う上で重要な上行性運動感覚信号は,視床腹中間核最外側部,及び皮質中心溝底部の3a,4の領域に投射していることが明らかとなった。
|