研究概要 |
他臓器の悪性腫瘍と同じく悪性神経グリオーマではその腫瘍内で豊富な腫瘍血管による血流のもとで好気性解糖系が非常に活性化されていることが知られている。解糖系の活性化とともに細胞内の乳酸アシドーシスと細胞性浮腫が生じ,細胞の機能低下を生じることになる。そこで選択的水チャンネルであるアクアポーリン-1(AQP-1)は解糖系の活性化に伴いその発現を増加させて細胞性浮腫を緩和する。さらに,細胞外に出された水は細胞膜上にあるカルボニックアンヒドラーゼにより再酸化され,カテプシンBを活性化して腫瘍細胞が血管周囲腔に沿って浸潤していくのに貢献する。そこで,定常状態にて継代を繰り返したヒトグリオーマ細胞株とヒトグリオブラストーマの手術標本においてAQP-1発現蛋白量を比較したところ後者において高値を示し,生体内環境により大きな影響を受けることがわかった。次はラットグリオーマ細胞株において解糖系を活性化させるため低グルコース下に培養した後,高グルコースおよび低酸素下に培養するとAQP-1蛋白の発現が著明に増加して生体内においても解糖系が大きな影響を及ぼしていることが予想された,続いて,解糖系が活性化された状態で,ラットAQP-1シークエンスより作成したsiRNAを細胞内に取り込ませると,その活性化に相関して細胞増殖が抑制された。Mayo ClinicのDr.LaRussoより供与されたAQP-1 plasmidをグリオーマ細胞株に取り込ませてAQP-1の過剰発現細胞株を作製した。これらは,定常状態では細胞増殖に通常のwild typeと差がないばかりか,高グルコース下に培養した場合,D-グルコースの代わりに代謝活性の無いL-グルコース下に培養した場合においてもwild typeとの差を認めなかった。これは解糖系による細胞性腫脹の緩和と細胞増殖にAQP-1が大きな役割を果たしていることを示す。
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