研究概要 |
脳脊髄液は、脳組織代謝やホメオスターシスに深くかかわることが認識されている。髄液圧が下がり起立性頭痛などを生じる低髄液圧症候群は、脊髄硬膜が何らかのきっかけで破綻し、内部の髄液が硬膜外へ流出することによって生じる。これが遷延すると慢性頭痛や精神症状などの難治性の病像を呈するとされるが、そのメカニズムは究明されていない。セロトニンは神経伝達物質の主たるモノアミンのひとつであり、セロトニンおよびその受容体の異常が、うつ病、偏頭痛、パニック障害、摂食障害、睡眠障害、不安障害などに深くかかわっていることが知られているが、このようなセロトニンが関与する病態は、低髄液圧症の慢性例に見られる症状に類似している。我々はMRIおよびRI脳槽シンチグラフィーを用いた低髄液圧症診断に関する臨床研究を進めるとともに、モノアミン代謝産物である5-hydroxyindolacetic acid (5HIAA), homovalinic acid (HVA)の髄液中濃度について計測した。また、髄液喪失の動物モデルを作成し、髄液減少が脳内セロトニン代謝に及ぼす影響について評価した。結果:低髄液圧症患者では、脂肪抑制MRIにおいて視神経周囲髄液が喪失していることが新たに確認された。これは、髄液量減少の鋭敏な指標と考えられ診断上有用であった。また、モノアミン代謝では、ドーパミンの最終代謝産物である髄液中HVAが5例中3例で高値を示していた。これは、ストレスに伴うドーパミン作動神経の過活動の結果とも考えられるが、症状の類似している慢性頭痛患者において異常値を認めなかったことから、髄液喪失状態がモノアミン代謝に何らかの影響を与えている可能性が示唆された。実験系においては、ラットを用いて髄液漏出モデルを作成し、基底核に挿入したプローブよりマイクロダイアライシス法を用いて脳内セロトニン、ドーパミンを計測した。その結果、脳実質内のセロトニンおよびドーパミンは髄液漏出の前おおび24時間後までの間、有意な変化を示さないことが確認された。
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