本研究代表者がジュネーブ大学で研究を行っていた際に、テルモ社がBrain Clot Retrieving Systemの試作モデルと各種脳血管内治療器具の開発用実験モデル(試作品の評価に使用する為の新たな拍動灌流血管モデル(人型))を開発した。本研究代表者は、素材チューブの摩擦抵抗計測、実際のヒトの血管撮影データとの比較、実際の血管内治療用具での手技を繰り返し、その血管モデルは従来のPVA血管モデル以上に有用であると判断した。そして、これまでのブタのフィブリン血栓、缶詰ライチ、フルーツグミ等の模擬血栓を用いた従来モデル血栓除去器具の操作を繰り返し、PVA血管モデルで実験を行う事で浮き彫りとなった問題点が再現される事を確認した。それらを基に、試作品3点の操作試験を行い、器具のループ形状とその取り付け形態、ループ素線の違いによる形態維持力の差が、どのように血栓の捕獲・回収能力に影響を及ぼすかを検討した。欧州での臨床試験において、屈曲蛇行の強い血管内では、マイクロカテーテルとの摩擦抵抗が増し、使用困難であることが分かった現行モデルを改良し、金属工学、製作技術の面から、よりシンプルで効率の良い、また手技として通常の血管内治療医であれば簡単に操作できるモデルの開発が必要となった。また、本機材の使用あたっては、親血管の血流をコントロールする事が重要であり、その為にバルーンガイディングカテーテルを使用することが望ましく、他社の協力にて最適なバルーンガイディングカテーテルを開発し、医療用具としての承認を得て臨床使用が可能となった。その後、テルモ社が本機材の開発を断念したことから、今後、本邦で承認される予定の他社製血栓除去器具の試験・使用トレーニングに用いることができる安価な血管モデルを開発することとした。そして、既存の薬品用チューブ類、シリコンシーラントと歯科用ワックスを用いたロストワックス法での任意形状血管モデル作成に成功し、従来の10分の1の価格で血管内治療用機材の評価・トレーニング用血管モデルを作成した。今後は、新たな血管内治療器具の開発、新たな機材の性能評価と臨床使用前のトレーニング、若手血管内治療医の育成にそのモデルを使用する予定である。
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