研究概要 |
我々は,拡散テンソル画像によるびまん性軸索損傷の定量評価を行い予後判定の画像診断基準の作成を目指して本研究を開始した.拡散テンソル画像Diffusion Tensor Imaging(DTI)およびDTI tractographyを用いて軽度から中等度頭部外傷患者35人(びまん性脳損傷25人,非びまん性脳損傷10人)における軸索の拡散異方性を急性期に測定した.統計画像解析の手法(Statistical Parametric Mapping SPM)を用いてfractional anisotropy(FA)値を解析したところ脳梁膨大部におけるFA値の低下が統計学的に有意なことが示された.さらに,11人の患者に高次脳機能検査を施行したところ,知能検査(WAIS-R)の結果と脳梁膨大部のFA値の低下の問には統計学的に有意な相関が認められた.しかし,Wisconsin card sorting test Keio version、 p300、 Trail making test、 Kana-hiroi test、 Rivermead behavioral memory testなどの高次脳機能検査の結果は、いずれも各部位のFA値との間に有意な相関を示すものではなかった.以上の結果より,軽〜中等度の頭部外傷患者においても脳梁膨大部のFA値の低下を認め、しかも,この低下の程度が長期的な高次脳機能の予後指標となる可能性が示唆された。これは,拡散テンソル画像によるびまん性軸索損傷の画診断基準を確立する第1歩となる成果である. 一方,血液と脳実質の磁化に対して処理を施し,血液そのものをマーカーとする全く非侵襲的なArterial Spin Labeling(ASL)による脳血流測定法(以下,ASL法)を用いて脳血流を測定することにより,さらに精度の高い画像診断が行える可能性があると考え、まず,正常ボランティアを募り、ASL法におけるヒトの脳血流の正常値を確定することを試みた.また,実際の患者にも適応し,拡散テンソル画像や高次脳機能との相関を調べつつある.
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