19年度までに、in vitroでの幹細胞の分化・遊走に対する電気刺激の効果を確認したが、20年度の研究で、用いる神経幹細胞の状態や刺激条件のわずかな差異でも実験結果が左右されることが分かった。一つ確実に分かったことは、電気刺激により、神経幹細胞陰極方向へ向かう遊走が増加することであり、in vivoでも遊走能が増加する事実と一致した。また、神経幹細胞におけるBDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌も増加することが明らかになった。 脳梗塞モデルラットに対する電気刺激療法についてもさらに研究を進め、硬膜外刺激と同様に脳実質内刺激でも強い神経保護効果を示すことが明らかになった。さらに、脳実質刺激により、亜急性期における行動学的改善や脳梗塞に陥った組織における内在性神経幹細胞の遊走と神経細胞への分化を確認することができた。分子生物学的には、電気刺激によりPI3Kが活性化されて生ずる抗アポトーシス作用が関与することも明らかになった。 パーキンソン病モデルラットに対しては、これらの結果を反映させて、神経幹細胞移植+硬膜外電気刺激を行った。モデル作成から1週間後に神経幹細胞移植を行い、同日より電気刺激を開始したところ、行動学的・組織学的改善が得られた。移植された神経幹細胞のドパミン神経への分化は残念ながら非電気刺激群と比較して有意差が得られなかったが、電気刺激群では、損傷線条体における移植細胞の分布が広がっていた。これは、神経幹細胞の有する遊走能が賦活化されたためと考えられる。
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