髄腔内バクロフェン療法は痙縮に対する有効な治療である。重度の脳性麻痺児では痙縮のみならず意識障害も改善することがある。本治療を早期に開始すれば高次脳機能発達も促進されることが期待される。バクロフェン療法の脳機能発達への影響を動物モデルで検討した。 生後7日目のラットの右総頚動脈を結紮し、低酸素(8%)に150分暴露して虚血低酸素刺激による脳性麻痺を作成した。カテーテルを付けた浸透圧ポンプにバクロフェンを充填し、生後5週目にカテーテルを脊髄クモ膜下腔に、ポンプを皮下に埋め込んだ。これによりバクロフェンは2週間持続投与された。ラットを3群(正常、脳性麻痺、脳性麻痺後のバクロフェン治療)に分け、以下の2つの検査を行った。運動機能検査:細い板上を歩く速度を測定した。高次機能検査:迷路に置いた餌の位置の記憶能力を測定した。 運動機能検査:脳性麻痺ラットは運動能力が低下し、歩行テストの所要時間が4.1秒に延長した(正常ラットは2.1秒)。バクロフェン治療により所要時間は2.5秒に短縮した。高次機能検査:脳性麻痺ラットは記憶能力が低下し、迷路試験の間違い回数が2.27回に増加した(正常ラットは0.85回)。バクロフェン治療により間違い回数は改善せず2.00回だった。 運動機能が改善し、高次機能が改善しなかったことから以下の2つを考察した。1.高次機能を発達させるには2週間の治療では不十分である。2.バクロフェン療法後の患者に見られる症状変化は覚醒度や反応性の上昇に留まり、記銘力や判断力の改善には至らない。 以上より、本研究での仮説(早期の痙縮の治療が新たな神経回路を形成する)の一部は否定された。早期機能訓練が臨床症状を改善する機序の解明は別のアプローチからの研究が必要であることが示された。
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