本研究では骨髄由来幹細胞(MSC)が脳腫瘍に特異的に集積する現象(tropism)を証明するために実験を行ってきた。これまでのin vitroの実験で腫瘍細胞のPDGFの発現量が多いほど脳腫瘍に集積しやすいことが明らかになったため、ラット大脳白質に存在するグリア前駆細胞にPDGFを高発現するレトロウイルスベクターを感染させることで作成されるラット脳腫瘍モデルを用いるべく初期実験を行った。その結果短期間でPDGFを高発現するグリオーマモデルが確立できたが、本研究を行うための個数が確保できなかった。そこでPDGFがMSCの脳腫瘍へのtropismにin vivoで関与しているかを調べる実験を行った。グリオブラストーマの培養細胞であるU87とLN229にPDGF-Bの発現プラスミドをトランスフェクションさせ、それぞれPDGF-Bを高発現するクローンと低発現クローンを選択した。これらの培養細胞をヌードマウスの前頭葉内に定位的に注入してグリオーマモデルを作成した。このモデルの内頚動脈内にGFPラベルされたヒトMSCを直接注入して、PDGF-Bの発現量とMSCの腫瘍内に取り込まれる量について検討を行った。その結果、PDGF-Bを高発現するクローンで作成されたグリオーマモデルの方が有意に腫瘍細胞内に取り込まれたMSCが多く、in vitroでもMSCが有する脳腫瘍へのtropismにはPDGF-Bが関与していることが示唆された。
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