研究概要 |
神経膠芽腫に代表される脳腫瘍では著明な血管新生が見られるものの、腫瘍細胞は異常な増殖により孤立した状態で十分に酸素も栄養分も届かないにも関わらず生存している.固形腫瘍では低酸素状態を呈するために、抗癌剤や放射線の感受性が低く,治療成績の低下、予後の悪化、再発の原因の一つとなっている.我々はこれまでに低酸素状態で働く転写因子hypoxia-inducible factorl α (HIF1α) DNAの発現制御について着目し研究をすすめた。さらには同遺伝子を用いた遺伝子療法の研究を行ってきた。近年、HIF1α遺伝子はstromal cell-derived factor-1 (SDF-1)とそのレセプターであるCXCR4遺伝子の発現を誘導させることが報告された。SDF-1はCXCR4陽性のstem cellやprogenitor cellをリクルートし、虚血など組織障害の修復に働くことが分かってきた。このような反応は、虚血細胞とそれらを取り巻く間質系細胞が密接に関与していることを示すものと考えられる。このような低酸素下の微小環境は腫瘍自体が生存するために必要不可欠であると同時に、微小環境自体が腫瘍の性状を規定しているものと考えられる。そこで低酸素状態において腫瘍細胞と血管内皮細胞間のクロストークを解析すると同時に、それらに関与する幹細胞に関しても様々な段階で制御することによって、治療への応用を図ることを目的として研究をすすめた。脳腫瘍移植モデルにおけるクロストーク解析、低酸素状態におけるクロストーク解析との観点に立ち研究した結果、これらの遺伝子が複雑に絡み合い、腫瘍の増殖、浸潤、血管新生に働いていることが判明した。また、臨床的には出血を繰り返し増えていく頭蓋内海綿状血管腫の患者では、血漿中のVEGFが上昇しており、活動期のマーカーとなりうることを報告した。
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