研究概要 |
[目的]最近、頚部頚動脈狭窄性病変の本態である粥状硬化の成因には、vascular endothelial growth factor(VEGF)とその受容体Flit-1が関与し、抗Flit-1によって粥状硬化が抑制されることが明らかにされた。VEGFは血管新生/透過性因子であり、頚部頚動脈狭窄病変のプラーク内出血を惹起している可能性もある。また、VEGFはhypoxia-inducible factor(HIF)1αによって誘導されることが報告され、またEts-1もHIF1αあるいはVEGFによって制御されていることが明らかにされている。今回、これらの因子群が頚部頚動脈狭窄病変におけるプラーク内出血においてどのような役割を演じているか、その分子機構を解明することを目的とした。 [方法]CEAの際に得られた内膜剥離標本71例を対象とした。ホルマリン固定標本あるいは凍結切片を、VEGF,HIF-1α,Ets-1,CD34,VEGF-Receptor(Flit-1),SMC,Macrophageに対する各種抗体を用いた免疫染色、Western blot法にて評価し,プラーク内出血との関連について検討した。 [結果]VEGFの発現は、粥状硬化巣内の泡沫細胞に強く発現し、大部分はmacrophageで一部はSMC由来であった。VEGFの発現するfoam cellは、plaque coreには少なく、fibrous cap、plaque shoulderに多く存在し、しかも剥離内膜深層でプラーク内出血の周囲に特に多く認められた。Filt-1の発現は、ほぼVEGFの発現と一致していた。また、ETS-2、HIF-1αはplaque深部のプラーク内出血周囲に発現を認め、その発現はほぼVEGFに一致していた。血管のマーカーであるCD34は、plaque内の新生血管に一致して認められた。 [結論]頚部頚動脈の粥状硬化巣内におけるVEGFは、大部分macrophage由来の泡沫細胞に発現しており、その誘導因子の一つとしてHIF-1αが示唆され,またEts-1もHIF-1α,VEGFによって制御されている可能性が示唆された。Macrophageは酸化LDLを取り込んでecholucentな不安定プラークの形成に関与しており、プラーク内出血はVEGFとその上流・下流の因子が直接・間接的に関与していることが示唆された。
|