研究概要 |
脊髄神経再生の研究は脊髄損傷を中心に多方面でなされている。しかし、倫理上問題、複雑な細胞調製、生着性の問題、腫瘍性変化の可能性、移植そのものの侵襲的行為など、実用面でのハードルは極めて高い。私たちは腫瘍抑制遺伝子であるVHL遺伝子が神経再生に大きく関与していることを発見し、VHL蛋白による神経再生の現象を証明してきた(Murata,Cancer Res, 2002,Kanno, Cancer Res, 2000)。今回、細胞膜透過性VHLペプチド(VHL-TATペプチド)を開発し、他家細胞の移植を行わず自己内在する脊髄ニューロンを再生させる方法を検討している。生理的な脊髄変性病態を示すラット脊髄症モデルを用いてこの神経再生の現象を証明すれば、脊髄変性疾患、脊髄損傷において不可能であった神経再生治療が可能となる。 平成19年度の初期検討において、ペプチド投与群とコントロール群とでは生理学的脊髄変性変化および運動機能変化に有意な差をもたらさなかった。病理学的変化も有意な変化をもたらさなかった。これは、神経再生の誘因として再生・修復機能が恬性化されるべき損傷部位を要するためと考えられた。そこで、内在性に脊髄損傷状態を誘発させる方法を見いだし、非骨傷性脊髄損傷モデルを作成した。その損傷状態、変化、神経再生を検討することとした。 非骨傷性脊髄損傷とは、骨傷を伴うような外傷を引き起こさず、脊髄損傷を誘発するものである。用いている慢性圧迫モデルでは、非骨傷性損傷の誘発が可能なことが判明し(脊髄脊椎21(5)2008,日本脊髄障害医学会雑誌21,2008)、神経再生モデルとしても有用である。脊髄露出に伴う人為的操作もなく、直接的外傷を伴わない。内在する脊髄変性疾患の病態としての理解にも流用しえた。このラットに対し、ペプチド投与群、PBS投与群(コントロール)、非投与群にわけ、検討進行中である。
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