研究概要 |
急性期脊髄損傷の患者を治療する上で、可逆性の神経症状を出来る限り回復させることが最大の課題である。外傷性脊髄損傷は、脊髄への直接外傷とそれに続発する二次的障害からなる。この自己崩壊過程とも考えられる二次的障害機序には、脊髄血行障害が重要な役割を果たしていると考えられている。脊髄損傷後の組織障害の拡大に関しては、損傷組織に浸潤した白血球のうち好中球がその病態に重要な役割を演じている可能性が考えられ、脊髄損傷急性期に好中球の組織侵入とその活性化を最小限にとどめることが、急性脊髄損傷の治療法と成り得ると考えられる。平成19年度は、ラット急性脊髄損傷モデルを用いて,補体抑制薬C1 esterase inhibitor(C1 INH)の脊髄損傷組織障害抑制効果を検討した。 Wistar rats(雄)38匹を用いて、気管内挿管後に人工呼吸器で調節呼吸を行った。尾動脈、大腿静脈にカテーテルを挿入し、持続血圧・脈拍モニター、血液ガス測定、及び薬剤投与ルートとした。高速ドリルで下部胸椎(Th12)の椎弓切除を行い、scanning法を用いて、脊髄外傷部の領域を25箇所において外傷前後の脊髄血流を測定した。脊髄外傷を与えた直後にC1INH 50 IU/kg(C1 INH群:n=16)または生理食塩水(対照群:n=16)を静脈内投与し、各群6匹ずつにおいて24時間後にmyeloperoxidase(MPO)活性の測定を行った。また、各群10匹ずつにおいて7日後までの神経学的評価および、7日目の組織学的検討による損傷体積の測定を行った。24時間後のMP0活性測定に関しては,sham群(n=6,椎弓切除のみ)を加えた。結果、損傷体積およびMPO活性は,対照群(0.65±0.02mm^3,187.1±12.2U/g)と比較してC1 INH群(0.54±0.02mm^3,141.2±7.0U/g)で有意に減少した(p<0.01)。以上より、C1 esterase inhibitorを用いた補体活性抑制は,血圧,心拍数,局所脊髄+血流に有意な影響を与えなかったが、脊髄損傷組織内への白血球浸潤を減少させることにより、組織障害を抑制することが示唆された。
|