IP_33kinaseノックアウトマウスすなわちIP_4欠損マウスを使用し、同マウスにおける学習・記憶障害とCa^<2+>動態の変化を組織学的・生理学的に観察した。1)IP_33kinase抗体を用いた免疫組織学的検索ではIP_33kinaseは正常海馬CA1領域に強く発現していた。2)10分間の両側前脳虚血では、虚血7日後海馬の組織学的ダメージに差異は認められなかった。3)電気ショックを用いたpassive avoidance testで、ノックアウトマウスは野生種に比し、学習・記憶能力に劣っていた。4)Rhod2-AMを用いた海馬スライスのCa^<2+>イメージングで、ノックアウトマウスはGlucose-Oxygen除去後、CA1における細胞内のCa^<2+>の増加開始までの時間が長く、Ca^<2+>増加率も少なかった。以上より、IP_4は細胞内Ca^<2+>の増加経路の1つとなっており、学習・記憶の獲得に関与していることが推測された。 2)幼若砂ネズミの虚血・てんかん抵抗性およびその機序の解明 生後2週間以内の砂ネズミを使い、AMPA型グルタミン酸受容体のGluR2が幼弱期における神経細胞死の制御を、細胞内Ca^<2+>の調節を介して行なっている可能性が示唆された。 3)ELマウス海馬CA3の過興奮性 てんかん自然発生ELマウスでは1)海馬CA3における神経細胞骨格蛋白NeurofilamentがコントロールDDYマウスに比し、幼若期から未発達である、2)Timm染色により、海馬歯状回〜CA3におけるMossy flberがより強く染色される、3)海馬スライスにおいて細胞興奮刺激としての虚血刺激を与えると、海馬CA3における細胞内Ca^<2+>およびZn^<2+>の増加がコントロールに比し、有意に高い、4)細胞外Ca^<2+>除去、NMDA型受容体拮抗薬AP5投与、AMPA型受容体拮抗薬CNQX投与、グルタミン酸投与などの実験により、増加細胞内Ca^<2+>の起源は細胞外起源と細胞内storage由来の両者があることが判明した。4)海馬スライスにおけるfield potential記録において、GABA拮抗薬ビククリンを投与し、EPSP(興奮性シナプス後電位)とIPSP(抑制性シナプス後電位)の割合をCA1とCA3を比較した場合、後者の方がよりIPSPの割合が大きい(よりGABAの影響が強い)ことが判明した。これらの結果は、ELマウスにおける細胞骨格蛋白の異常、海馬CA3における興奮系と抑制系の異常あるいはアンバランスが主としてグルタミン酸受容体を介した細胞内Ca^<2+>の増加を介して、発作時の興奮伝達やてんかん原性・発作原性に関与する可能性のあることを示唆する。
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